今まで支援をしてきた若者の中で、長期間に渡るひきこもり状態にある方の全員が自分で動き出す力はありませんでした。 もちろん全員が、このままではだめだ、なんとかしなければと思っていました。それでも動き出せないのです。 自力での脱出は非常に難しいのです。
なぜなら、ひきこもり状態から自力で脱出するためには(詳細は別途記載します)、考え方を変え、決心し、不安を解消し、 慣れるまでの辛さに耐え、ストレス抜きをし... とたくさんの段階があります。 それぞれの段階をスムーズに、現状を客観的に把握しながら進んでいくことが必要なのです。
今までのリスタートのほとんどの利用者さんが、最初のころには、「少し休んだら元気になってなんとかなるだろう」と思っていたそうです。 そのまま動き出せないまま数年間が経ってしまっていました。ある利用者さんの言葉で、来月から仕事探しをしようと思いながら半年が経ち、 年末が近づいてくると来年からやろうと思うようになり、2月になると4月が区切りだからと4月を待ち... と数年が経った、とのことでした。
先延ばしにする癖を変えない限り、本人から動き出すことはありません。
1か月以上のひきこもり状態になる若者に共通する傾向として、現実逃避と先延ばしがあります。 この二つとも、決してそれ自体は悪いことではありません。大きな過去のストレスを回避して健康を維持するための現実逃避、 耐えがたい未来のストレスを回避して健康を維持するため先延ばし、人間には必要な大切なスキルです。
しかし、そのスキルがひきこもり状態からの脱出を難しくします。 現実逃避と先延ばしのスキルによってひきこもり状態が続いてしまっていると言っても、保護者の方はご納得いただけると思います。
現実逃避と先延ばしのクセを止めるには、成功体験とストレス耐性の強化が必要です。 成功体験とは「○○ができた。ほめられた。自分はなかなかやるな。」と自尊心を高めるタネのようなものです。 ストレス耐性とはあるストレスを受けた時に対処する方法を身につけたり、考え方を変えたりと、ストレスになることが起こってもストレスを溜めて残さない力なのです。
成功体験とストレス耐性、この二つの力を伸ばすことで、不安・失敗するかもしれない→なんとなくだいじょうぶな気がする、できるかもしれない、失敗しても次がある、 と思えるようになります。
しかし、この二つの力は、社会的な活動やカウンセリングの中で身につけていく力なので、ひきこもっている状態のままでは身につけることができません。 つまり、ひきこもっている = 社会的な行動が少ない ⇒ 成功体験やストレス耐性が強化されない ⇒ ひきこもりが継続する、という悪循環の流れにより、 ひきこもりから脱出できないのです。
この悪循環の流れから抜け出し、ひきこもりから脱出するためには、ひきこもり支援を専門としている伴走者が必要なのです。
伴走者は、マラソンランナーの隣にいて、疲れすぎないように客観的なペースをランナーに伝えたり、励ましたり、本人の風よけになったりと、様々な役割をします。 ひきこもり脱出の伴走者も、進む方向性を相談し、本人の気持ちに寄り添い、本人の頑張る気持ちを支え、励まし、頑張りすぎないようにペースを伝えたりと、様々な役割をします。
実は、このたくさんの役割の中で最も大事なものは、「一人じゃないから頑張れる」という気持ちを作ってあげられることです。 自立に向けて頑張ろうと思っていても、やっぱり一人だと、つまづいてしまった時に止まってしまったり、諦めてしまったりしてしまいがちです。 そんな時、伴走者がいると、そのつまづきさえも楽しく乗り越えていくことができます。そのつまづきが気にならないことさえあります。
今まで公的機関や病院、不登校支援団体、ひきこもり支援団体に支援してもらって、それでも本人の自立に至らなかったのではありませんか? 当団体の多くの利用者さんは今まで色々な支援を受けて来られた方でした。 支援を始めて、そんな利用者さんの保護者の皆さまがおっしゃるのは、「どうしてそんなにすぐに変わり始めるんですか」と言われます。 「ひきこもり状態は、非常にたくさんの気持ちが複雑にからみ合っている状態だから、自立にはたくさんの気持ちをほどいていくことから始めることが必要だ」と思われがちです。
確かに、本人の自立までには、たくさんの気持ちを整理していくことは必要です。ただし、大きな落とし穴なのは、治療までに時間がかかりすぎるということです。 過去のトラウマを処理するために思い出し、苦しみ、ケアして、と時間がかなりかかるのです。また、そうしているうちに本人の自立へのやる気がどんどん減っていきます。
実は、本人が変わったり、動き始めるまでには、そんなに多くの気持ちの整理は必要ない、ということはあまり知られていない事実です。当団体で支援を開始して、2か月くらいで 実質的にひきこもり状態から脱出している利用者さんは少なくありません。そうすると、利用者さん自身が「自分の変化」に驚き、自信を回復し、自分で動き出します。 そしてたくさんの気持ちの整理は必要なくなることがあります。例えば、働き始めるために自動車学校に通っていたら、自己否定はかなり少なくなります。
もちろん、短期間で動き出すためには無理をしていけません。本人ががんばり出すことをじっくり一緒に考えなければいい結果にはなりません。 動き出すまでの支援内容は利用者さんごとに違い、本当にさまざまです。期間もさまざまです。動き出すまでに半年、1年かかる利用者さんもいます。
一つ、民間のひきこもり支援専門団体だからこそできることがあります。それは、本当に本人の状態に合わせて行動できるということです。 ご両親と相談しながら、本人のために色々なことをします。免許を取りに一緒に通ったり、一緒に動画を作ったり、料理をしたり、ドライブしたり、家を探したり、等々、なんでもしてきました。 だから本人のケアができるのだと思います。
本人が行きたがらないために、病院やひきこもり支援を受けられない状態でお困りではありませんか。 ほとんどのひきこもり状態の方が、カウンセリングや支援されることを嫌がります。ある利用者さんもその一人でした。 その利用者さんはその理由を「ひきこもりのカウンセリングや支援を受け入れるということは、自分が自力では脱出できない情けない奴だ、という事を受け入れるという事と同じだ。 だから、そんな辛いことはできない」とおっしゃっていました。他にも、「これ以上親には経済的な負担をかけられない」や、「近所の人の目があるのに、支援されているなんてことが 知られたら、噂になってしまう」等、色々な理由があります。
ただ、一度受け入れてもらうと、本人が「本当は待っていた」と話してくれることは少なくありません。
一度受け入れてくれるまでが辛いのです。
そんな場合でも、本人ができるだけ快く受け入れてもらえるように対応し、多くの生徒に自分でその固く閉ざしたドアを開けてもらってきました。 時間がかかることもありますが、ご自身の勇気を固め、自立への決心をしてもらう時間だと考えています。その間はできるだけ気持ちを込めてお話することで、 できるだけ本人にそのドアを開けて、自らの足で自立への一歩目を踏み出してもらっています。一見うまくいかないように思いがちなのですが、その時間が非常に大切です。 私どもからの問いをきっかけに、本人が自らの事を考え、自分を変えようと決意する時間だと考えています。
自らの決心でドアを開けてくれた利用者さんたちの自立は、スムーズに進むことが多い印象があります。